アスレティックトレーナーの基礎知識 頭部外傷 (脳震盪 脳挫傷 意識障害 評価方法 等)
1 頭を打つと何が起こるのか
1.頭の構造
頭は大きく分類すると表面から、頭皮,頭蓋骨,脳という三重構造になっています。とてもやわらかい脳は人間にとって、活動の司令塔となる重要な器官です。脳は頭蓋腔内に満たされた脳脊髄液によって浮かんだ状態になっています。頭蓋底には脳と周囲組織を継ぐためのパイプである脊髄や脳神経,動脈や静脈などの太い血管があります。脳の上部(円蓋部)では、脳の血液を頭蓋骨の内張りとなっている静脈洞に向けて導き出す架橋静脈が橋渡しして脳を吊り上げるようになっています。
2.部位別にみた頭部外傷
@頭皮の損傷
頭皮は頭の表面を覆い、頭蓋骨や脳を衝撃から守るクッションの役割を果たしています。しかし、切り傷を受けたり頭皮のクッション性を超えるほどの外力が加わったりすると出血を起こします。頭皮は血流に富んでおり、動脈が浅層部を走行するため、小さい傷でも出血量が多くなるのが特徴です。
A頭蓋骨の損傷
頭蓋骨は脳を守る鎧の役割を果たしております。頭蓋骨の骨折は硬い物体との衝突でおこり、これほどの衝撃を受けた場合、脳にも何らかの悪影響を及ぼすことが多くなります。骨折の部位や程度によっては、硬膜外血腫を発生させることもあります。
B脳の損傷
頭を打ち付けたり激しく揺さぶったりすると、脳の働きに障害を起こすことがあります。程度が軽い場合には、脳震盪(短時間意識,記憶を失うか判断力が鈍る)ですみますが、重篤な場合には、意識障害が長引いたり、数日後に死に至ってしまったりすることがあります。脳の表面や深部には出血が起こり、脳の形状が崩れてしまう脳挫傷,脳が腫れ上がってしまう浮腫,血腫で脳が圧迫されるなどの障害が発生します。
このような傷害の発生部位や範囲は、どこを打ったかによって異なります。脳の働きが障害される度合いと脳の肉眼的な損傷の程度は、ある程度一致するといわれています。また、脳の障害の程度は意識によっても判断できます。
3.脳損傷
@加速損傷
スポーツにおける頭部外傷は、頭を打撲することによって発生します。当然、直接的な衝撃も問題ですが、より問題なのが間接的な打撲直後の激しい振動なのです。これを理解しておかないと頭部外傷の特徴を把握することはできません。
頭全体が激しく動いたり急に静止したりすることによって、頭蓋骨の中に納められている脳は瞬間的に大きく揺れてしますのです。このようなメカニズムによって脳に損傷を起こすことを加速損傷と呼んでいます。これによって脳細胞は一斉に活動を停止させるため、初期意識障害が発生することがあります。逆を言えば、初期意識障害は加速損傷が発生したという証拠です。
A脳損傷の仕組み
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通常のスポーツで発生する加速損傷は、その外力がある程度限定されています。従って脳損傷の主体は直接的に外力が加わった部位ではなく、脳と頭蓋骨のズレによって負担が大きくなる架橋静脈の損傷,脳内部の神経細胞の機能異常や線維断裂です。また、支点となる頸椎にも負担がかかるので頸椎損傷を同時に起こす可能性があります。
2 意識障害と脳損傷
1.意識障害の分類
頭部外傷後の意識状態の観察で最も大切なのが時間的な変化であり、急性の場合には分単位で変化することもあります。したがって、厳重な観察を行うことによって重大な障害を見逃さないように注意することが大切です。
意識のチェック
早期に回復が見られない場合、最低でも15分間は観察を継続し、完全に正常になるまでは5分おきに見当識の確認を繰り返しましょう。見当識とは指南力とも呼ばれ、「時」「場所」「人」について正しく認識できているか否かを調べる方法です。少しでも曖昧になったり間違ったりするようであれば見当識障害と判断すべきでしょう。
これ以上の場合、つまり誰が見ても危険な様子であれば、早急に医療機関へ搬送します。
2.軽度意識障害(脳震盪)の見分け方
スポーツ現場で起こる脳震盪は精神活動が傷害され、混乱と健忘がその特徴です。したがって、脳震盪の見極めは容易ではありません。頭部打撲を受けても回復後に競技を再開し、競技が終わったら全く覚えていないという事例もしばしば報告されます。つまり、健忘最中でも意識や運動機能は正常であり、競技を続行することが可能なのです。
記憶には短期記憶と長期記憶があるが、外傷性健忘では短期記憶のみの障害で、長期記憶は障害されません。そこで、質問の内容には注意が必要で、即時ないしは短期記憶に関する質問を行うべきなのです。本人の名前やチーム名では長期記憶なので適していません。質問の内容は、「今日は何日?」「この試合会場はどこ?」のどの短期記憶に関する質問を行うようにします。また、脳震盪では、頭がガンガンしたり何かがおかしいと訴えてきたりする選手もいます。
3.運動障害と感覚障害の見分け方
脳障害,脊髄障害,末梢神経障害のいずれでも運動障害や感覚障害が単独,あるいは同時に発生します。ここではスポーツ現場で障害を発見するのに簡単に行えるクイック評価法をご紹介します。
@運動障害
重篤な場合は手足が動かせないので誰がみても明らかであるが、障害の発見をするには適当な手段が必要です。
上肢の運動障害 | ||
| テスト方法 | 陽性の場合 原因は紙を推測cleberityの執着 |
@ | 手のひらを上に向けて両側の上肢をまっすぐに前方に上げて保つ。 | 一方の上肢が上がったり内側に回転したりすれば異常。(上肢バレ徴候) |
| ||
A | 両手で同時に握手する。 | 左右差があれば異常。 |
B | 親指を人差し指から小指まで順番に素早く触れていく。 | スムーズにできなければ異常。 |
下肢の運動障害 | ||
| テスト方法 | 陽性の場合 |
@ | 仰向けに寝て下肢をまっすぐに45度位まで上げて保持させる。 | 位置が保持できなければ異常。(下肢の下垂徴) |
A | 片足立ちをさせる。 | よろけたり転倒したりすると異常。 |
B | つぎ足歩行で直線上を歩かせる。 | よろけたり転倒したりすると異常。 |
|
A感覚障害
痛みや感覚過敏(痺れ等)は自らの訴えがあるので把握できますが、感覚脱出(通常の刺激に反応しないこと)や深部感覚障害は検査しないと発見できません。
下肢の運動障害 | ||
| テスト方法 | 陽性の場合 |
@ 私はGMATを受けずにMBAを取得することができます | ハンカチやちり紙などで皮膚に軽く触れる。 | 反応なし |
A | 安全ピンなどの鋭利なもので痛覚を刺激する。 | |
B | ペンなどで皮膚に大きく数字を書き、目を閉じた状態で当てさせる。 | |
C | 目を閉じて両手を前方にまっすぐ挙げさせる。(ロンベルグ試験) |
3 非打撲型の脳損傷
1.打っていないのに脳損傷が起こる理由
頭を強く打ったときに大きな負担が脳に加わることによって発生する脳損傷ですが、頭は直接打っていなくても激しい振動が加われば十分に負担が加わってしまうのです。つまり、激しく揺さぶられることで、頭部打撲と同じような脳損傷が起こるのです。
2.判断の難しい接触プレー
接触プレーでは頭を打ったり、大きな衝撃が脳に加わったりしたことに気づかないことがあります。また、どの程度揺さぶられたら危険かの判断は難しく、どのプレーが脳損傷と関係があるかを判断することはできません。
さらに、脳震盪の場合には意識を失わない限り、プレー中に何か異変が起きたとは判断できません。したがって、頭部に大きな衝撃が加わったと感じないときでも、重篤な脳損傷が起きていないとは断定できないのです。
4 安心できない経過観察
1.注意が必要な頭蓋内血腫
脳震盪以外の理由で意識障害が起こり、最も危険なのが頭蓋内血腫です。これは血が溜まって脳を圧迫することによって発生しますが、圧迫するほどの血腫になるまでに時間がかかります。さらに、頭蓋内の出血なので外見からは気付きません。脳の圧迫症状で最も分かりやすい症状が意識混濁です。一度は意識を取り戻したように思われる場合でも、後から違う意識障害が疑われるときには注意が必要です。
2.意識清明期と頭蓋内血腫
意識清明期とは、出血が続いているけれども脳が圧迫されるまでには至っていないので、話が出来るという期間を指します。頭蓋内血腫は出血の溜まる部分によって、急性硬膜下血腫,外傷性脳内血腫,急性硬膜外血腫に分類されます。また、意識清明期が短ければ短いほど圧迫の影響が激しいと考えられます。
【急性硬膜下血腫】
最も意識清明期が短くて死亡率が高いのが急性硬膜下血腫です。さらに、スポーツで最も発生率が高い血腫でもあります。短いときには10分間程度で意識清明期が終わって意識混濁が始まります。ただし、長いものでは数時間から数日経過してから意識が混濁してくる可能性もありあます。したがって、スポーツによる意識障害が起きたときには、少なくとも一日は決して1人にするべきではありません。また、急性硬膜下血腫での死亡を防ぐには、発生してから手術までの時間の経過を短くすることが最重要課題です。少しでも異常に感じられたら躊躇せずに医療機関に搬送しましょう。
5 慎重にすべきプレー続行の判断
1.二度目の衝撃に弱い脳
頭部の衝撃を受けて十分に回復しないままで、次の衝撃を受けると重大な脳の損傷を受ける可能性が高くなります。今のところ、どれぐらいの期間や時間をあければよいかは明確になっていませんが、慎重になり過ぎたぐらいがいいと思われます。
2.脳震盪を起こした選手の復帰時期
ラグビーフットボールの国際競技規定では試合や練習を問わず、脳震盪を起こした場合には3週間以内の復帰を禁止しており、復帰時期は専門医の判断が必要となります。ラグビー以外でもボディコンタクトの多いスポーツでは、それぞれの連盟で独自に規制を定めているので尊厳すべきでしょう。
6 緊急処置の手配
1.現場の責任者を明確にする
スタッフは事故による緊急事態が発生した際の、役割分担を明確にしておくべきです。誰の指示のもと統制をとるのか,誰が何をするのか,誰が医療機関に付き添うのかなどの決め事が緊急時には重要です。
2.医療機関を見つける
頭部外傷では特に専門的な医療体制が必要なため、対応できる医療機関を事前に調査しておくべきです。また、合宿や遠征などの場合も同様ですが、把握していない場合は迷わず最寄りの医療機関に搬送すべきです。頭部外傷に対応できない医療機関であっても、多くは脳神経外科の病院と連携させています。迷って無駄に時間を経過させないほうが得策です。
3.医療機関にあらかじめ連絡をとる
円滑な手順になるようにするためにも、事前に連絡をいれておきましょう。搬送する前に状況を伝えておけば、医療機関側も準備して待ち受けてくれます。
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